FEATURE 特集
一つの問に対し、言葉がこぼれるように溢れ出す。
きっと大越氏にとって一生終わる事のないワインへの追求心が、ワインとの素晴らしい関係を作り出したのだろう。
インタビュー第一回目は日本を代表するソムリエ、大越氏とのワイン談義をお送りします。
シェフ・ソムリエ
大越基裕 Motohiro Okoshi
1976年4月24日 北海道札幌市生まれ
バーテンダーからサービス業界に入る。ワインに魅せられて渡仏を決意、帰国後2000年にソムリエになる。ワインバーで勤めた後2001年に銀座レカンにソムリエとして入社。様々なコンクールや実践で経験を積んだのち、更にワインの奥深さを知るために、再び2006年より2年半渡仏。帰国後2009年より銀座レカンシェフ・ソムリエとなる。
受賞歴
2003年第一回JALUX WINE AWARD優勝
2006年第5回Cuvee Louis Pommery Sommelier Concour 第2位 等
現在はAcademie du vinでの講師も務めている。
──まず、大越さんとポートフォリオとの出会いは?
清家さんにご紹介頂く前に、業界の中で名前は聞いていたんです。数が少なくて、カリフォルニアの中でも凝縮度があり、バランスが取れている良いワインがあるけど、割とお値段するからこれからなんじゃないの?というウワサを聞いていたんです。その後しばらくたってから、共通の友人を介して飲み、試飲会などに呼んで頂くようになりました。
──飲んだ時の最初の印象を覚えていますか?
覚えています。オーパス・ワンは割とフランス的な方向に熟させつつも、エレガントな部分をちゃんと側面に持っていて、過熟なスタイルを取らないという姿勢をずっと貫いていたので、そこが世界的にすぐ有名になったところだと思います。ポートフォリオの造り手が元々はオーパス・ワンの造り手という事を聞いていたので、きっとそういう印象なのかな、というある程度の情報がありましたが、やはり飲んだ時の印象はそのままでした。あ、やっぱり綺麗に酸を残したいタイプなんだなと。フレッシュというかイキイキした感じ、快活さというのをワインの中に残すようなスタイルで、私たちフランスワインを普段取扱う人間にとっては、このスタイルは扱いやすいですね。
──飲む前に情報があった中で、飲んだ後のオーパス・ワンとポートフォリオの大きな違いは何だと思いましたか?
ワインのスタイル的には、造るどうのこうのより、葡萄をどういうふうに熟させて、いつそれを収穫するかという”時期”が大事で、やはりフィロソフィーが似ているので、スタイルは似ていると思います。でもポートフォリオの方が私にとってはどちらかというと親しみやすい味わいです。もう少し早いうちからも飲める受け口がわりと広いかな、と。共通して言えるのは、両方とも年の差の個性がすごくはっきりしていますね。遅摘みの方法で造っている生産者の中には、その差が割と少ない方も多いのですが、先日も3ヴィンテージ試飲させて頂いて、この年は暑くてこの年は逆に涼しかったのだろうな、と感じさせる味わいでした。全てのヴィンテージにおいて、上手にまとめられている味わいの中で明らかに個性が違う。で、その個性というのがワインの楽しみなんです。ポートフォリオはワインらしい楽しみができるカリフォルニアワインだなと思いました。
──新しいヴィンテージ、2008年はもう飲まれましたか?
はい。2008年は味わいとしては本当によくまとまっています。いつものポートフォリオのスタイルというのは、果実感やタンニン、酸などのバランスがきちんと取れており、必ずワインの中に快活さが忍ばされています。この味わいのスタイルを決める一つの分かれ目になるところは、多分収穫時期の差だと思うのです。
2008年は、ワインの中の様々な物質の量がやや控えめというのが印象です。きっとそんなに天候に恵まれなかったのだろうというイメージが得られるのですが、それはワインの重さや豊かさを少し変えてはいくものの、ベストなタイミングで収穫をしていれば、ワインは年の個性を反映した素晴らしい質のものになります。天候に恵まれてボリューム感のあるポートフォリオも以前のヴィンテージではありましたが、ボリューム感が控えめでも、ちゃんとタンニンや酸のバランスが取れており、綺麗な味わいを展開しています。こういう年は質を保つ為に特に畑で頑張らないといけなかった年だと思います。そしていつものように、その年の個性を大切にした醸造と熟成にて、2008年らしい個性であるバランスの良さと華やかさを併せ持つ、素晴らしいワインになっていると思います。ポートフォリオには、いつも質の良さと年の違いを楽しませてくれるラインはちゃんと超えてくるなというのが、ここ4ヴィンテージ全部飲ませて頂いて感じているところです。ですからどの年でも飲んでみたいと思うワインですね。
──レカンで出しているお料理とポートフォリオを合わせるなら?
代表的なのは牛、そしてこの時期だと鹿、ですね。ポートフォリオは酸がのっているので、おもしろいと思うのは鹿。一緒に凝縮感のあるポワブラードというコショウをしっかりときかせた赤ワインベースのソースがあるのですが、ワインとソースの酸が同調して互いの香りを強調するんです。そこに甘いだけのワインを合わせても、味わいの風味が伸びてこないのです。鹿はちょっとレバーっぽい風味もありますし、ソースは粘性もしっかりしているので、ピノノワール等では風味やボディがやや弱すぎちゃうんです。
ジビエの時期というのは、ソースがどんどん凝縮して重くなるので、一部のカベルネソーヴィニヨンでも実はダメだったりするんですね。ボルドーだと線が細すぎるんです。私はカリフォルニアのちょっと甘さのあるタイプのワインというのは、色々な方向で合わせる可能性が出てくると思います。ここの甘いは決してネガティブではなく、煮込み系や濃度の高い粘性のあるソースだと、ワインのボリューム感が負けないと思います。そういう意味では、私どものお店では、この時期の方が活躍するワインですね。
──お店でのポートフォリオの相性を伺いましたが、プライベートでポートフォリオを楽しむのだったら?
そうですね。やはりこれだけのクオリティがあるので、やっぱりちょっと大きいグラスがほしいよね、とか、もっとゆっくり時間をかけてどんどん開く様を楽しむのだったら、デキャンタージュをしたいよね、などと考えると、飲む場所はかなり限られてきます。そこまでプレステージュな感覚で楽しみたい、そういうワインです。 ホームパーティで〆の一本でも良いかもしれませんけどね。それくらい味わいはしっかりしているし、ワインとして花があり、メインを飾れるパワーがあるので、これをメインにした構成を考えれば、素敵な贅沢なパーティになるのではないかな、と思います。
──遡りますが、そもそもソムリエになられたきっかけというのは?
もともと将来バーを持ちたいと思って北海道から東京に上京してきました。しかしバーテンダーとして頑張っていた頃、田崎真也さんが世界最優秀ソムリエコンクールで優勝されてソムリエという職業があることはブラウン管を通して初めて知ったんです。私は当時バーテンダーをやりながら、お酒全般のプロになりたいと思っていましたから、それならソムリエ資格もとりたいと考えるようになっていました。ちょうど98〜99年は、日本におけるフランス年で、沢山の催しがあった年でした。そこで初めて様々なワインを比較して飲み、同じ葡萄品種でもずいぶん味わいが違うなと驚いたんです。その時たまたま佐藤陽一さんが一般向けにワインセミナーをしており、それを聞いて衝撃を受けたのを覚えてます。ワインだけでこんなに話しが出来るんだと思って。本当に驚き、以来自分でワインについて勉強するようになりました。
──追求心がすごいですね。どんどん突き詰めていく姿勢が素晴らしいです。
全てが楽しいからですかね。バーテンダーも楽しかったですけど。私にとっては、あの時に比較して飲んだワインが”やばい”と思いました。これはとても深い世界だなぁと、一生かかっても見切れないんだろうなと感じたんです。そこに魅力を感じました。それからソムリエになりたくて1年弱のフランス留学経験をし、2000年にソムリエ資格をとりました。レカンには2001年から働いています。以来ここにずっとおりますが、もう一度ワインをよく勉強してから再渡仏したい希望をずっと持っていたので、2006年〜2008年の間に再渡仏しています。
──1回ソムリエを取られてからまたフランスに行ったんですね。
そうなんです。僕にとってとても重要な経験でした。正直ソムリエになる前にフランスに行った時は、何を学べば良いのか分からなかったんです。でも逆に当時の自分の知識レベルでは限界があることは分かったので、日本に帰ってちゃんとソムリエ資格をとり、色々な経験をしてからもう一度来ようと思ってました。ですから、もう一度行くまでに、7年も経っていました。2006年の収穫から、醸造栽培の学校に行きながら、ヴォルネーという村のワイナリーで働いていました。これを2年半続けながら、時間があるときはフランス中、ヨーロッパ中をまわりました。
そして2008年の秋に帰ってきて、2009年からシェフソムリエになりました。
──2度目にフランスに勉強しに行く具体的なきっかけというのはありましたか?
元々ワイン造りを勉強したいと思ったのは、ある日、山梨のワインの造り手の友人と一本のワインを一緒に飲んでいた時に、僕はそのワインの良いところを表現するのに対し、彼はその逆で、更にそのワインがより美味しくなる醸造や栽培方法を考える飲み方をしていました。当然といえば、当然なのですが、同じワインでもでてくるコメントが全然違うことに気づいた時、僕はその様な考え方も出来るようになれば、ワインの本質にもっと迫れるんじゃないかと、自分のテイスティング能力がもっと上がるんじゃないかと考えました。その先には、ソムリエとして、より的確なワインサービスや選択が出来るのではと思ったのです
──ここまで勉強したら帰るというのは決めていたんですか?
と言ってもやりたい事は尽きなかったので、1年延ばしましたし。笑 99年に行った時は実はホームシックにかかってるんです。フランス語もできなかったですし。でも2回目は目的も明確でやることだらけで、あまりにも楽しかったですね。ソムリエを6年くらいやってきて、こんなに知らない事がワインの世界にまだこんなにあるんだ、と思う事があまりにも新鮮で、それを吸収する3年間というのは、なんでしょう、もう嬉しい限りでした。
清家>ワインへの情熱がすごいですよね。勉強になります。
──何かの記事で1週間で100種類のワインを飲んでいらっしゃるというのを読んだのですが、プライベートでもお酒は飲まれますか?
笑 100本は飲んでいないですよ!試飲が殆どです!ワインが大好きです。殆どワインですね。知らないワインがこの世には多すぎるんです。だからとりあえず飲みます。ポートフォリオだって来年には味わいが変わっているわけですし、世界には100万軒のワイナリーがあるらしいんです。その全部のワイナリーが各ヴィンテージ、更に一つのメーカーが一つのキュヴェを造っている訳ではないですからね。かける何倍にもなっていく訳ですから。そう考えると追いかけても、追いかけても追いつきません、むしろ離されてますね。笑 でも、だから楽しいです。いつまでも知らない事だらけで、そういう世界でゆっくりではありますが、追いかけ続けていくつもりです。
──ソムリエの中でも大越さんのようになりたい、と思う方がたくさんいると思いますが、大越さん自身が今後目指すところは?
僕はワインとは絶対に離れられないです。厳しい自然と一緒に人の手によって造られた素晴らしいワインが世界中に沢山あるので、できるだけそれを美味しく飲んで頂きたいです。ソムリエというのは、最終消費者に責任をもってワインをお勧めする仕事でもあります。そのワインをどうやったらより美味しく飲めるかを知るべきですし、どうやったらお客様が更に喜んで頂けるのかを考えるべき、責任のある立場です。それが僕にとって今後もやり続けたいことですね。だから僕にとって、仕事は仕事、遊びは遊び、という垣根は殆どないんです。毎日が仕事ですし、毎日が遊びなんです。ワインのテイスティングをするということは、僕にとって仕事というだけではないんです。これは僕にとっての”喜び”でもあるんです。香りをかいでいるだけでも楽しく、そこから得られる情報が頭を駆け巡る感覚はとても嬉しいです。これはお店にいるからとか、家にいるからとかは関係なく、どこでも同じ感覚ですね。実は水でもコーヒーでもやってしまうんですよね。飲むとそのものについて考えちゃうんです。もう一口目はクセですね。よく疲れない?と言われますが、でもそれを楽しんでいるので、疲れるという感覚はないです。これが僕とワインの垣根のない関係、存在ですね。
清家>そんな大越さんにこうやってレカンさんで取扱っていただけるのが本当に嬉しい!
ありがとうございます。でもこれからですよね。まだまだ新しいブランドで、ブランドを育てるのには時間がどうしてもかかるものです。安売りせずにこのまま頑張って欲しいと思います。個人的にもこれからも見続けたいワインです。今ままでのヴィンテージの今後の姿も楽しみにしています
銀座レカン
東京都中央区銀座4-4-5 ミキモトビルB1
03-3561-9706
日曜定休
ランチ/11:30~14:30(L.O.) ディナー/17:30~22:00(L.O.)
http://www.lecringinza.co.jp/lecrin